2013年2月28日木曜日

妊孕力(妊娠する力)と女性の年齢について その2 治療すれば、妊娠できる?

生殖補助医療を受けた方の妊娠率、生産率、出産率など (2010年)

年齢と妊孕力の話の二回目は、実際のデータをお見せして、話をしたいと思います。

今、妊活を考えている、している方の中には、治療さえすれば、妊娠できる!と、期待されている方も多いかと思います。
確かに、ここ30年の不妊治療技術の進歩は目覚ましく、その恩恵を受ける事が出来る患者さんが増えてきたのは事実です。
ですが、序章でも述べました通り、今、加齢による妊孕力の低下が、不妊治療に立ちふさがる大きな問題で、卵の質の低下を防ぐ事、治療する方法は、まだ臨床で実用化されている物は、ありません。

日本産婦人科学会では、毎年、生殖補助医療(ART; Assisted Reproductive Technology、 主に体外受精や顕微授精などの、技術を使った不妊治療の事) 成績を、全国から集計、解析し、そ結果を報告しています。これは、同学会のホームページより、借用しました。

ここで2,010年度日本産婦人科学会発表データを見てみましょう。この表から、妊娠を希望し、日本で不妊治療を受けた人が、どのような結果に至ったのかが、わかります。


まず、ART妊娠率、生産率、流産率の結果です。

総治療数に対する妊娠率(青)総胚移植(ET)に対する妊娠率(赤)生産率(緑)流産率(紫)です。
妊娠率、 生産率が35歳以降を超える頃から、年齢と共に低下しはじめ、40歳頃を境に、カーブが急に下がり、45歳以降では、きわめて低くなっているのが、お分かりいただけると思います。それとは対照的に、 流産率は35歳以降を超える頃から、年齢と共に増加し始め、そのまま47歳まで増加を続けます。


次の表は、実際に治療を受けられた患者さんの年齢と治療周期数です。
治療周期数は、30歳から増加し始め、総周期数のピークは、40歳前後にあることが、わかります。



また、最後の表からは、40歳以降で、先天異常の発症率が高くなっているのが、お分かりいただけるかと思います。





これらのデータをみて、皆さんは何を感じ、考えられますか?
世界で最先端を誇る日本の生殖補助医療を持ってしても、年齢が上昇すれば、妊娠が難しい事、年齢の増加と共に流産率や先天異常の発生率上昇する事が、お分かり頂けるかと思います。

最近でこそ、卵子の老化、妊活といった言葉も、一般に広まってきているようですが、まだまだ、認知度は低いかと思われます。

身近に、40歳を超えて、妊娠、出産された方がいらっしゃる方も多いかと思います。ニュースでも、そういった事を聞く機会が増えてきていると思います。 ただ、そういった方は、幸運にも、妊娠、出産に至ったのであって、誰でも、治療によって、妊娠、出産できる訳ではありません。 今、35歳以上、40歳以上で治療を受けている、受けようと思っている方を、失望させようと思って言っているのではありません。
もし、本当に妊娠、出産を望むのであれば、まずは早目に専門医のアドバイスを受けて欲しいと思っています。

それと今、日本では、妊娠適齢期(?)に、妊娠して子供を持ちたいと思う人が、妊娠、出産、育児をできる環境を作る事が、社会に求められているのでは、ないでしょうか?


妊孕力(妊娠する力)と女性の年齢について(序論) 

妊孕力(妊娠する力)と女性の年齢について(序論) 

加齢に伴い、妊娠は難しくなります!


妊孕力(にんようりょく、妊娠する力)年齢とともに変化します男性も女性も思春期の始まりとともに、妊孕力がつきます。

女性の場合、月経(生理)と排卵の開始が、生殖可能期間の始まりです。一般的に閉経後の女性は、妊娠できなくなるは、理解されています。が実際は、閉経510年前位で、妊孕力がなくなります。女性の閉経は51歳±5歳ですので、その5〜10年前が、妊娠できるリミットの歳となります。

現代の社会では年齢関係する不妊症は、より一般的になってきています。
例えば女性が、キャリアを形成しているうちに30に入り、その後結婚し、家庭を持つ事が増えてきているのも、年齢に伴う不妊症増加の一因です。
現代の女性の中には、以前より、さらに健康に気をつけ、運動をし、食べるものにも気をつけたりして、健康的な生活をる方も、増えております。しかしながら、健康的な生活を行うことによって、加齢による妊孕力の低下を送らせることは、できないと考えられています。

もう一度ここで強調しておきたい事は、卵巣内の卵の質が低下することと、妊孕力(妊娠する力)年齢と低下することです。

女性は、生まれた時に、決まった数の卵子をもって生まれきて、これらが老化する、と今まで言われてきました。これについては、私の研究室を含む最近の研究から、新しい発見がありましたが、これはまた別の機会にお話させていただきたいと思います。

妊娠の適齢期は、20歳代と言われています。 加齢による妊孕力の低下は、一般の女性が想像しているよりも、早くから起きている事を知っていただきたいと思います。


2013年2月19日火曜日

はじめに

皆さん、初めまして、こんにちは。樽井智子(たるいともこ、旧姓 金子智子)です。アメリカ在住の産婦人科医/基礎研究者です。 
現在日本では6組に1組が不妊、全世界では4850万組(2013年現在)が不妊に悩んでいると言われております。私は、医学生時代から、今に至るまで、不妊に関する研究や臨床に従事しておりましたが、近年、患者さんの増加を肌で感じています。

その際に、感じたのは、誰でもインターネットでいろいろな情報にアクセスできる今、逆に、どれが正しい情報なのか、どこに正しい情報があるのかが、わかりにくい事。
私自身も、自分の専門分野ではない情報を探す際には、すぐに情報の海で溺れてしまう経験をしています。

知人を介して、紹介された方の相談に乗る事も多いのですが、皆さん、ご自身で検索して、沢山の情報を得られているのですが、その内容は玉石混合といった事が多いです。

不妊かも?とおもい、情報収集を始めた方は、きっと同じように、情報過多だけど必要な情報に行きついていないのではないでしょうか?

これから、日本とアメリカで、不妊治療の臨床と基礎研究に従事してきた経験を通じて、正しい情報に基づいた医療情報 (evidence based medicine: EBM)を発信し、女性の健康に寄与して行きたいとおもっております。

どうぞ、よろしくお願いいたします。