生殖補助医療を受けた方の妊娠率、生産率、出産率など (2010年)
年齢と妊孕力の話の二回目は、実際のデータをお見せして、話をしたいと思います。
今、妊活を考えている、している方の中には、治療さえすれば、妊娠できる!と、期待されている方も多いかと思います。
確かに、ここ30年の不妊治療技術の進歩は目覚ましく、その恩恵を受ける事が出来る患者さんが増えてきたのは事実です。
ですが、序章でも述べました通り、今、加齢による妊孕力の低下が、不妊治療に立ちふさがる大きな問題で、卵の質の低下を防ぐ事、治療する方法は、まだ臨床で実用化されている物は、ありません。
日本産婦人科学会では、毎年、生殖補助医療(ART; Assisted Reproductive Technology、 主に体外受精や顕微授精などの、技術を使った不妊治療の事) の成績を、全国から集計、解析し、その結果を報告しています。これは、同学会のホームページより、借用しました。
ここで2,010年度の日本産婦人科学会発表のデータを見てみましょう。この表から、妊娠を希望し、日本で不妊治療を受けた人が、どのような結果に至ったのかが、わかります。
総治療数に対する妊娠率(青)、総胚移植(ET)に対する妊娠率(赤)、生産率(緑)、流産率(紫)です。
妊娠率、 生産率が35歳以降を超える頃から、年齢と共に低下しはじめ、40歳頃を境に、カーブが急に下がり、45歳以降では、きわめて低くなっているのが、お分かりいただけると思います。それとは対照的に、
流産率は35歳以降を超える頃から、年齢と共に増加し始め、そのまま47歳まで増加を続けます。
次の表は、実際に治療を受けられた患者さんの年齢と治療周期数です。
治療周期数は、30歳から増加し始め、総周期数のピークは、40歳前後にあることが、わかります。
また、最後の表からは、40歳以降で、先天異常の発症率が高くなっているのが、お分かりいただけるかと思います。
これらのデータをみて、皆さんは何を感じ、考えられますか?
世界で最先端を誇る日本の生殖補助医療を持ってしても、年齢が上昇すれば、妊娠が難しい事、年齢の増加と共に流産率や先天異常の発生率上昇する事が、お分かり頂けるかと思います。
最近でこそ、卵子の老化、妊活といった言葉も、一般に広まってきているようですが、まだまだ、認知度は低いかと思われます。
身近に、40歳を超えて、妊娠、出産された方がいらっしゃる方も多いかと思います。ニュースでも、そういった事を聞く機会が増えてきていると思います。 ただ、そういった方は、幸運にも、妊娠、出産に至ったのであって、誰でも、治療によって、妊娠、出産できる訳ではありません。 今、35歳以上、40歳以上で治療を受けている、受けようと思っている方を、失望させようと思って言っているのではありません。
もし、本当に妊娠、出産を望むのであれば、まずは早目に専門医のアドバイスを受けて欲しいと思っています。
それと今、日本では、妊娠適齢期(?)に、妊娠して子供を持ちたいと思う人が、妊娠、出産、育児をできる環境を作る事が、社会に求められているのでは、ないでしょうか?
4 件のコメント:
智子さん、いつも勉強させてもらってます。自分は染色体異常の研究をしているので、ダウン症には常々興味を持っています。今度ゆっくりお話したいですね。
智子さん、私も数年前IVFを試み、妊娠できませんでした。治療中の精神的な負担、時間的な負担は大変でした。年齢の割には良いグレードの卵がとれたと言われ、受精卵を5つ戻してもらったのですが、すべて着床しませんでした。やっぱり子宮も年をとっていて受け入れられないんだろうなあとしみじみと思いました。
やはり大学等でこういう話を講義の一部に組み込むのは大切なことだと思います。女性のキャリアの確立について考えるというのも大切なことですが(女子大でしたので)、こういう話題について若い人たちに話し合いをさせるのも大切なことですよね。
Taruhoさん、コメントありがとうございました。母体血を使った出生前診断を含め、染色体異常については、倫理面を含め、沢山問題がありますね。是非今度、また、お話しましょう。
酒さん、コメントありがとうございました。不妊治療や妊活は、精神的、身体的、経済的負担のとても大きな物だと思います。 高齢になったら妊娠できないといったことは、学校で習わなかった!!と、テレビでコメントされていた方もいらっしゃいましたが、確かに、ティーンへの教育では、避妊が中心で、ライフプランを考えて、適切な時に生めるように、という観点からの教育は、ほとんど行われてきませんでした。いま、少しずつ、若者に啓蒙活動をしている方が増えてきている所だと感じています。 もっと、中学生や高校生などに、こういった事を伝える機会を増やしていければ、と思います。
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